(本記事には執筆途中の部分が多々あります、ご了承ください)
病院薬剤師の方と話す機会があり、次の質問を受けたので解説記事を書いてみます。
質問は「腫瘍を可視化するアラベルが光線過敏症を起こす薬剤と併用できないのは科学的にどのような理由なのでしょう?」
でした。私勉強不足でこの薬剤について知識がなかったので、この度勉強してみました。せっかくなので情報をまとめたので、どなたかの参考になればと思います。
アラベルとは
まず、アラベルに含まれる有効成分の検索をしましたところ、成分は「アミノレブリン酸」(略:ALA)でした。
構造は以下の通りです。
ん??
「どうやってこんなものが作用するの??UVも吸収しない(正確には日常的に触れるUVAとUVB)だろうに光線過敏症??」
というのが初めて見た瞬間の感想でした。調べていくといろいろとわかることがありましたので以下にまとめました。
アラベルの適応
悪性神経膠腫の腫瘍摘出術中における腫瘍組織の可視化
添付文書の記載そのままですが、手術で腫瘍を可視化するために使用される薬剤となります。
アラベルの作用機序
ALAを投与することで生体内でプロトポルフィリンIX(PPIX)が生成します。PPIXは400-410nmの青色光線による励起により赤色蛍光を発するので腫瘍が可視化できます。
アミノレブリン酸は腫瘍細胞に取り込まれ、プロトポルフィリンへと代謝されます。腫瘍細胞ではPPIXの生成速度が速く、PPIXからヘムの合成が遅いのでPPIXが腫瘍細胞に蓄積します。
というのが添付文書の内容です。
アラベルの科学
添付文書からは上記のような情報が得られましたが、科学的な情報がほとんど含まれていませんでした。そこで文献サーチに入りました。下記の文献がよくまとまっていましたね。
The Porphobilinogen Conundrum in Prebiotic Routes to Tetrapyrrole Macrocycles
上記の文献でも解説されていますが、下の図に示したように、ALAは生体内の酵素の働きにより二量化してピロール化合物であるピロールプロフィブリノーゲン(PBG)を形成します。さらにPBGが縮合することで、ポルフィリン化合物のウロポルフィリノーゲンが生成します。これがさらに代謝されることで、プロトポルフィリンIX(PPIX)が生成します。
有機化学に精通している人は、縮合方法にKnorrタイプとFischer-Finkタイプの2パターンあることがわかると思います。詳しく知りたい方は以下の文献を参照してもらえればと思います。(時間があるときに解説します)
Competing Knorr and Fischer–Fink pathways to pyrroles in neutral aqueous solution
アラベルが光線過敏症を起こしうる薬剤と併用禁忌である理由
冒頭の質問になりますが、一見、光科学的知見からは光の影響を受けなそうに見えるアミノレブリン酸ですが、ポルフィリンへと代謝されて光との反応性を獲得するという機構でした。これによりポルフィリンが光線過敏症を起こす可能性があるために、その他の光線過敏症を起こしうる薬剤と併用禁忌となったのでしょう。
光線過敏症を起こす薬剤の光感受性を増強するなどのメカニズムがあれば科学的に興味深かったのですが、そのような情報は見つけられませんでした。
ポルフィリン症
調べた中で見つかったのですが、ポルフィリン症と言ってポルフィリンが体に蓄積される疾患があり、この疾患では光線過敏症症状が良く発生するみたいですね。つまり、ポルフィリン環はそれ自身に光反応性があり、皮膚障害を引き起こすということですね。
光線過敏症を起こしうる薬剤
光線過敏症を起こす薬剤のリストもありましたのでまとめておきます。赤字はポルフィリン類似物質です。
向精神薬 | クロルプロマジン,プロメタジン,ジアゼパム,カルバマゼピン,イミプラミン |
筋弛緩薬 | アフロクァロン |
抗ヒスタミン薬 | ジフェンヒドラミン,メキタジン |
抗菌薬 | ナリジクス酸,エノサキシン,オフロキサシン,シプロフロキサシン,ロメフロキサシン,スパルフロキサシン,フレロキサシン,トスフロキサシン,テトラサイクリン,ドキシサイクリン |
抗真菌薬 | グルセオフルビン,フルシトシン,イトラコナゾール |
消炎鎮痛薬 | ケトプロフェン,チアプロフェン酸,スプロフェン,ピロキシカム,アンピロキシカム,アクタリット,ジクロフェナク,ナプロキセン |
降圧薬 | ヒドロクロロチアジド,トリクロルメチアジド,メチクラン,クロフェナミド,トリパミド,メトラゾン,フロセミド,塩酸チリソロール,ピンドロール,塩酸ジルチアゼム,塩酸ニカルジピン,ニフェジピン,カプトプリル,リシノプリル |
抗糖尿病薬 | トルブタミド,クロルプロパミド,グリベンクラミド,カルブタミド,グリミジンナトリウム |
痛風治療薬 | ベンズブロマロン |
抗腫瘍薬 | 5-FU,テガフール,ダカルバジン,フルタミド |
高脂血症治療薬 | シンバスタチン |
前立腺肥大治療薬 | タムスロシン |
光化学療法薬 | 8-メトキシソラレン,トリオキシソラレン,ヘマトポルフィリン誘導体 |
ビタミン薬 | エトレチナート,ピリドキシン,ビタミン B12 |
抗リウマチ薬 | 金チオリンゴ酸ナトリウム,メトトレキサート |
新しい皮膚科学 第三版 13章 物理化学的皮膚障害・光線過敏症 より引用
半減期は2.27時間だが禁忌薬剤とは2週間を空ける
ALAはアミノ酸なので、半減期は2.27時間と短いです。
PPIXも4.91時間とそこまで長くない半減期となっています。
とすると2週間という併用回避はかなり長い印象を受けます。血漿からの消失が早いだけであり、皮膚に蓄積してしまうのでしょうか?
わかり次第追記します。情報をお持ちでしたらコメントいただけると助かります。
CYPは大丈夫?
ポルフィリンと聞いて思い出すのがCYP!
ポルフィリンが増えると鉄に配位したりといろいろ影響しそうですが大丈夫なのでしょうか?
これについてもまだ情報をあつめれていないので、見つかり次第更新します。
穴だらけの記事で申し訳ございません。
追記をお待ちください。読んでいただきありがとうございました。