授乳婦が飲んでも良いクスリー母乳中に移行しやすい薬剤の科学的性質、子供への影響ー

 母乳に移行しやすい薬剤

「授乳中ですけど、この薬飲んで大丈夫ですか?」
薬剤師であれば、必ず遭遇する質問だと思います。

多くの場合答えられません。そして添付文書をみると、
「治療の有益性があると判断される場合にのみ使用」
というありきたりな記載。

私はいつも科学的に判定できないものか?と考えてきました。
答えにたどり着けるかわかりませんが、少しまとめてみます。

Topics & Check Point !!
1. 母乳の性質
2. 母乳に移行しやすい薬剤の科学的性質
3. 必ず注意すべき薬剤
4. 授乳中に頻用される薬剤
5. 最後に(注意事項)

先に参考にした文献を引用しておきます。
知っておくと役に立つ小児科の知識(昭和学士会雑誌, 2013, vol 73, pp301-306)
母乳と薬ハンドブック(大分県「母乳と薬剤」研究会)
母乳および調製粉乳と乳児の脂質栄養 

1:母乳の性質

これはこれだけでネタ性があったので、また別件で書いてみます。

・pH:6.6-7.0
・15%が脂肪
・脂肪分は、母体の食事の影響を受ける

 

2:母乳に移行しやすい薬剤の科学的性質

弱塩基性薬剤>弱酸性薬剤
分子量250~500ダルトン
アルブミン結合率の小さな薬剤

母乳中に移行する薬の量は極めて微量で、平均して1%程度

詳細は、本ページ下部を。

 

3:必ず注意すべき薬剤

知っておくと役に立つ小児科の知識(昭和学士会雑誌, 2013, vol 73, pp301-306)
この文献から引用しました。一度お目通しください。

抗がん剤、放射性製剤、リチウム、シクロスポリン、フェノバルビタール、エトスクシミド

 

4:授乳中に頻用される薬剤

1:検査の造影剤
授乳婦は、バリウムやMRIガドリニウムが使用されやすい。

バリウムは、ほとんど吸収されないので問題にならない。
ガドリニウムは、母乳に移行しにくく、もし移行したとしても、児にはほとんど影響がない。

2:解熱鎮痛薬
ほとんどの解熱剤は母乳にいこうしにくいが、もし使用する場合は、アセトアミノフェン(カロナール)、イブプロフェン(ブルフェン)にしましょう。

3:抗ヒスタミン薬
眠気を伴うものは回避する(膜透過性が高い)
ロラタジン(クラリチン)、セチリジン(ジルテック)、フェキソフェナジン(アレグラ)が望ましい。
クロモグリク酸(インタール)は消化管からほとんど吸収されないので安全に使用できる。
サルブタモール(サルタノール)も通常量で使用できる。
テオフィリン(テオドール)は使えないことはないが、注意が必要である。

4:抗菌薬
ペニシリン、セフェム、マクロライドは1歳未満にも使うことがあるため良い。
テトラサイクリン、クロラムフェニコール、サルファ剤は避ける

5:抗ウイルス薬
アシクロビル(ゾビラックス)、バラシクロビル(バルトレックス)、オセルタミビル(タミフル)は、授乳を介して児が摂取する量は小児用量よりはるかにすくなく、問題になりにくい。
ザナミビル(リレンザ)、ラニナミビル(イナビル)は吸入なので心配いらない。

6:降圧薬
ACEI(レニベース、カプトプリル)は新生児の授乳婦には使用しない方が望ましいとなっているが、母乳中の量はごくわずかである。
ヒドラジン(アプレゾリン)は母乳中濃度は極めて低い
ニフェジピン(アダラート)は安全と考えられている。
メチルドパ(アルドメット)も移行性が少ない。

7:ステロイド
プレドニゾロン(プレドニン)5mgを飲んだ量の0.14%が母乳中に移行するとされている。
少ない量ではあるが、念のために4時間ずらすことが望ましい。

8:甲状腺薬
レボチロキシンナトリウム(チラージンS)は母乳にあまり移行しない
プロピオチオウラシル(プロパジール)は母乳にあまり移行しないため望ましい。
チアマゾール(メルカゾール)もあまり移行しないが児の甲状腺機能をチェックすべき。

9:抗精神薬
基本的に使用すると授乳できなくなる薬剤はないが、児の発達状況をモニタリングする。

以上、知っておくと役に立つ小児科の知識(昭和学士会雑誌, 2013, vol 73, pp301-306)より

5:最後に

今回、授乳中でも使用できうる薬剤を列挙しましたが、必ずしも添付文書上では許可されているわけではありません
薬剤師さんは、危険性があるものが処方されていた場合、医師に確認はとってください。

母乳と薬ハンドブック(大分県「母乳と薬剤」研究会)

 

母乳を化学的に分析してみましょう。

Science Point!!
S1:弱酸性なので弱塩基性薬剤が移行しやすい
S2:強酸薬剤、強塩基薬剤は母乳に移行しにくい
S3:弱塩基性薬剤

S1:弱塩基性薬剤が母乳に移行しやすい

生体内のpHは7.4
母乳のpHは6.6-7.0

弱酸性および弱塩基性薬剤は、pKaが比較的7に近く、血漿中で分子型が多少存在してしまいます。これが細胞膜を通過して乳腺に分配してしまいます。

分子型の薬剤は、あくまでも細胞膜を通過するための形態であり、最終的に血漿と母乳どちらに居座るかは、イオン化しやすいかどうかということになります。

なので、「生体内のpHは7.4」「母乳のpHは6.6-7.0」ということから弱塩基性薬剤が母乳に居座りやすくなります。

S2:強酸性薬剤と強塩基性薬剤は膜透過が弱く母乳に到達しにくい

強酸性、強塩基性薬剤は生体内でイオン型割合が非常に多くなるため、細胞膜を通りづらく乳腺細胞にたどりつきにくくなります。
強酸性薬剤が分子型になるにはpH1-2以下の条件が必要です。逆に強塩基性薬剤が分子型になるには、pH13-14の条件が必要です。

S3:弱塩基性薬剤の名前

薬を作るとき、固体であることが製剤化で重要となります。

アミンみたいな含窒素化合物は、塩にするために「HCl:塩化水素」が加えられていることがあります。

つまり、「○○○○塩酸塩」は塩基性薬剤であることが多く注意が必要です。

ちなみに○○○○塩酸塩は塩基性化合物の酸性塩です。
詳細は過去記事:塩基性塩と酸性塩 を