先日(2019.08.24-25)、大阪大学豊中キャンパスで、「第4回 日本薬学教育学会大会」が開催されました。この学会と、学会内で開催されるワークショップのことは、清水先生のtwitterで知りました。
第4回日本薬学教育学会の発表申し込みおよび事前登録を受け付けております。https://t.co/CphqKn7h4Y
大学教員だけでなく薬剤師の皆さんと一緒に教育を考える場にしたいと考えています。
阪大で行うので、近畿圏の薬剤師の皆さんの御参加をお待ちしております(^-^)
EBM、構造式WSもあります(^-^) pic.twitter.com/or2E32b5TB
— 清水 忠 (@furanether) May 30, 2019
今回がすでに第4回目だったんですね。しばらく薬学部から離れていたので情報の入手が遅くなってしまいました…。
では学会に参加したレポートを書きます!
第4回 日本薬学教育学会大会に参加した理由
私は薬学部卒業後に
学部を持たない、創薬研究科
医薬関係の研究はしているか、薬学部ではない部署
に所属し、薬学部から離れて何気に6年の月日が経ってしまいました。薬学会とかには参加してますよ!ですが、薬学生の教育に触れず、ただ大学で研究に従事する毎日です。
こんな教育の機会を持たない人間が、薬学教育学会に今回参加した理由というのは、元々「薬学教育」に興味があった+薬学における科学教育に危機感を感じていたためです。
薬学部からだいぶ距離を取ってしまっていますが、最近の薬学教育の最前線を知るために、教育に対して同じような考えを持つ教員と知り合うために参加してきました。
研究に加え「薬学教育」に興味があり、教えることが好き
研究に囲まれている私ですが、アカデミックの道を目指した根源には、薬学教育があります。
学部時代は、偏差値の低い私立薬学部に在籍していました。私立大学薬学部ではよくある話なのですが、入ってくる高校生の物理・化学・生物の学力は低く、これを引きずるため国家試験で苦労します。私は、これらの基礎系科目が得意だったので、よく周りの友人や後輩から「化学教えて」といわれることが多くありました。こんな学生生活の中で、化学を教える楽しさと「ありがとう」といわれる喜びをしり、これを仕事にできれば…と思うようになりました。そして、私は大学で教鞭をとる道を目指すようになりました。
いざ、大学院で研究を始めると、研究の面白さにも気づきました。今では、研究と研究教育、学部教育の双方に注力していきたいと思っています。
薬学部の「化学の衰退」という危機感を共有する
学部生の頃から、友人や後輩に化学を教えているなかで「このまま、化学力が低下して大丈夫なのか?」と思うことが増えたことから、「何とかする必要あるよな…。」と常に考え続けています。その対策を考える意識共有するためにも、学会に参加し、他の教員と意見交換を図りたかったのです。
薬学部の化学力が低下しているといいましたが、ここで一つ示したい例があります。
恥ずかしながら、私の過去の成績を示します。
Twitter上だと、これより遥かに点数のいい後輩たちがいらっしゃるので少し恥ずかしいです…汗
ですが、化学(&物理、生物)は、「それなりにできた方といってもいいのかな?」と思っています。
実家の本棚見てたら、6年前の模試成績表出てきた!!
みんなが書いてる感じに書くと…
257→257→275→302 (98回)1回と2回が同じ点という辺りが、スロースターターであることを示してる。笑
3回目の模試で生薬外して、化学三冠逃したの悔しかったなー。#98回薬剤師国家試験 #統一模試 pic.twitter.com/d59ZINst18— 化学系薬剤師Takashi@博士・理系とーく (@TKurohara) March 29, 2019
ツイートに載せた試験結果を見てもらうといいのですが、1回と2回では化学は一応1位なんです。ですが、満点を取ってるわけではないのです。3回目に至っては3問も落としているのに、10位ですよ。
そう…。トップの層が非常に少ないのではないのでしょうか???
これ、6年前の結果なのですが…、近年はもっとレベルが下がっていると耳にします。実際に、当時の後輩たちのレベルがすさまじく低下し続けていることを感じていました。
(※基礎系の科目は、基礎であるため出題範囲や難易度は変わらないので年度が違っても比較できると思います)
薬学の中の化学って、とても面白いのに、この状況が嫌で、薬学部の科学のレベルを上げることに身をささげたいと思うようになりました。
日本薬学教育学会で参加したワークショップ
今回、学会で2つのワークショップに参加してまいりました。結論から言うと、「参加してよかった」のただ一言です。
と、まぁ、そうなのですが、一言で済ませるのは開催してくださった先生型に非常に失礼です。ちゃんと細かく書いていきます!
「学生企画!化学構造式の臨床応用を意識づける授業をデザインしてみよう」
「今回の学会に参加しよう!」と決めたのは、ワークショップに興味を持ったからです。
ワークショップは4人1組のSGDで、テーマは「薬学部教育で必要な化学の臨床応用プログラム」でした。
要するに、「臨床で化学を使うことを意識させるには、どのような教育プログラムを立てる必要があるか」という意見を出し合うというものでした。
所属班での意見
私のグループは、私+実験・実務系大学教員+薬局薬剤師+病院薬剤師の構成でした。
いろんなフィールドからの参加者がいて多方面から見た意見が飛び交いました!
【問題点】
1. 文献を調べ、読む力が少ない→基礎能力(英語、物理、化学、生物)が必要だったりする
2. 臨床経験がない教員が授業を持っている
3. 学生に化学の学習目的を伝えることができていない
4. 現場の「科学を使いこなす学生・新人」の受け入れ能力、新人育成が不十分
5. 臨床現場の薬剤師が、配合変化、粉砕、混合などで疑問に思ったことが放置されている
【やるべきこと】
1. 1~3回生の講義で、科学でこんなことができるようになるという例を示す。情報発信能力を鍛える。
(キレート、光線過敏症など現場から上がった症例をテーマに、そのメカニズムを文献調査学習させる など)
2. 大学教員が現場に、病院・薬局薬剤師が大学に、互いに学べる機会を増やす
(研究教員と教育教員の区別化 基礎科目教員による卒後教育 など)
3. 国家試験の問題の質を改善する
(問題作成する教員がもっと現場に行く)
私が参加したグループのディスカッションレポートはこんな感じでした。いろんな意見を耳にでき大変刺激的でした。
他のグループで上がった問題点・意見
他のグループの内容も発表で聞いたのですが、「学習目的を明確にし、意欲を改善する」という点は、全部のグループで共通だったと思います。
他の班で出た「なるほど」と思った意見を出しておきます。
【問題点】
1. 学年・他科目にあわせた化学教育を行う
2. 授業をGamifyすることで、楽しく授業
3. 薬剤師の仕事が、科学知識なくしても成り立つ
【やるべきこと】
1. 薬理の教育の中で、構造活性相関(タンパクとのドッキング)として有機化学を出す。開発、合成の経緯を含ませる。
2. 反応機構とかよりも、官能基を見てその特徴を見て特徴を判断する授業から
(同種薬でのカルタなどがゲーム学習 など)
今回のワークショップに参加しなければ得られなかった着眼点ですね。
個人的結論
科学というものは、目の前の現象を理解するために生まれた学問であるので、面白いと思えること、現象を理解できることが楽しいといえることが大切なのではないのでしょうか?
実際に私が見てきた、科学ができる薬剤師は知識が幅広く優秀な人が多いです。
科学は「知識の糊」いや、「知識の接着剤」と言っていいと思います。「現象がわかる」という楽しさを薬剤師と薬学生が持てることを願っています。
この記事の最後にも書いていますが、知識を持っている薬剤師には信用という形で、報酬がついてくるものと思います。
そういう薬剤師が育つように、臨床と大学がタッグを組んで教育していくことが大切だと思います。
「TBLを用いたEBM教育に取り組んでみよう!」
EBMのワークショップにも参加してきました。当初参加する予定ではなかったのですが、当日参加が可能ということだったので。
普段臨床系の文献を読むことがないので、せっかくだし聞いておこうと思ったための参加でした。
内容は
1. 課題となる論文を読んでくる
2. 課題に対応した問題に答える
3. グループで正しい回答を答え合わせしていく
4. 論文の読み方を解説
5. 論文からセミナーを構築する方法の解説
という感じの概要になります。
課題となった論文は以下のものでした。
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1812389
読みなれていない系統の論文だったので、初見はチンプンカンプンでしたね!
内容
【論文を用いたEBMトレーニング】
血糖コントロール不良の患者さんに、SGLT2阻害薬を追加する
という症例に対し、論文の研究内容(SGLT2阻害薬ダパグリフロジンと心血管イベント)を用いて、
1. どれほどの効果が期待できるか
2. 心血管イベントをどれだけ有意に抑えることができるのか
などを読み取り、処方薬の追加がケースの患者にとってどれだけ価値があるものかを考察する。
というものでした。
データの読み方や、最小限の労力で論文を読む方法を教わることができ、大変有意義でした。
【論文から学習用の症例問題を作成する】
EBMワークショップを長年実施されてきた、高垣先生による講義もありました。
「症例問題はこうやって作るのか!」と大変勉強になりました。
ありがとうございました。
※講師などの情報は追って記載します。
日本薬学教育学会ワークショップ参加を終えて
「学生企画!化学構造式の臨床応用を意識づける授業をデザインしてみよう」「TBLを用いたEBM教育に取り組んでみよう!」
の二つのワークショップに参加してきました。
現状の薬剤師業界が抱える問題は、
1. 高度な知識を持つ人材が少ない
2. 論文や学会に慣れた人間が少ない
これらのことが課題と思います。「薬局や病院、各箇所にPhDを一名置くと薬剤師の未来は明るいのかな?」と思う今日この頃です。
臨床系PhDは、科学力は低いかもしれませんが論文を読みデータを読み取る能力は高いはずです。
基礎系PhDは、臨床知識は低いかもしれませんが、論文慣れと、他とは違う視点を持っている部分が頼りになります。
EBMのワークショップには、できるだけ多くの薬剤師・薬学生が参加してほしいと思いました。
いや、学部での講義実施は必須にすべきだなと思いました。
化学文献を用いたEBMセミナーはできるか?
今回のワークショップを終え、化学を仕事としている身として化学文献を使用したEBMを企画できないかな??と考えました。
キレート薬の飲み合わせ
医薬品の安定な保管方法
配合変化
成分分解
などのネタについて、安定性や分解速度を調査している論文を用いて、現場での対処法を提案するようなセミナーもアリかな?と思っています。
最後に一言
「科学」という学問は、目の前の事象を理解するためのものなので、「保険点数」を求められる薬剤師にとってプラスになりにくいかもしれません。ですが、患者目線になってみると、「あの薬剤師は科学的に面白く教えてくれる、また教えてもらいたい」となることもあるのではないのでしょうか?
これは「信用:クレジット」という見えづらい形ですが、点数や売り上げにつながっていくと思っています。
頑張ろう、科学系薬学!!
以上レポートでした。