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ダカルバジンの光分解生成物による血管痛と、遮光の必要性について

2020年04月30日

臨床でしばしば問題となる、抗がん剤の静脈内投与による血管炎の発生について科学的に考察してみました。
こういう問題があると何かと理由をつけて考えたくなるのが科学者の性ですね。

今回紹介するのはダカルバジンです。

ダカルバジン(DTIC)とは?

適応症:1. 悪性黒色腫、2. ホジキンリンパ腫、3.褐色細胞腫
用法:
1. 1日100-200㎎を5日連日静脈内投与、4週間休薬
2. ほかの抗悪性腫瘍剤と併用において、1日1回375㎎/m2(体表面積)、13日休薬2回を1コースとする
3. シクロホスファミドとビンクリスチンとの併用において、1日1回600㎎/m2(体表面積)の量で投与

ダカルバシンはアルキル化により腫瘍細胞の増殖を抑制するタイプの抗がん剤です。血管炎が副作用として有名であり、5%以上の頻度で発生しています。この血管炎を防ぐためにも、投与の速度を遅くする必要があります。使用の際に遮光を施すことで、血管炎が抑制されることから、できるだけ光との接触は避けたいところですが、ゆっくりと投与しなければなりません。

 

ダカルバジンのアルキル化作用機序

ダカルバジンの生体内における活性化機構です。ダカルバジンは肝臓代謝活性化(N-Meの酸化的水酸化)をうけ、腫瘍組織に到達し、DNAの塩基などの求核性のある構造を反応し、メチル基を付加します。
まるでジアゾメタンによるメチル化のような反応機構です。

ダカルバジンの作用機序

引用:Synthesis and Molecular-cellular Mechanistic Study of Pyridine Derivative of Dacarbazine
T.Li et al.IJPR 201312, 255-265. より

 

ダカルバジンの光分解と遮光の必要性光分解でDiazo-ICが生成)

続いて、ダカルバジンか光で分解される機構と遮光の有効性について考察しましょう。

ダカルバジンの光分解生成物(Diazo-IC

ダカルバジンが分解されることで生成する物質は、Diazo-ICとされています。
引用文献は下の二つです:
Causative agent of vascular pain among photodegradation products of dacarbazine, J Pharm Pharmacol, 2002, 54, 1117-1122.
Dacarbazineの光分解によって生成する発痛物質の探索, 臨床薬理, 2001, 32, 15-22.)
金沢大学 宮本先生グループの研究結果です。

ダカルバジンは200~400 nm(紫外線~青)の光を吸収し、分解します。吸収極大は、230 nmと330 nm付近です。

ダカルバジンが光により活性化(励起)されると、不安定なN-N結合が開裂します。これによりジメチルアミン構造がラジカル開裂を起こし、Diazo-IC (3)が生成します。下記の分解生成物(1-4, 6,7)をマウスに投与する実験より、Diazo-IC (3)が痛覚物質であると同定されました。また、Diazo-IC (3)は、光存在下に脱窒素分解し、(6)へと分解され、未反応の(3)と結合することで赤色生成物を生じます。したがって、着色したダカルバジンは発痛物質Diazo-IC (3)を多く含んでいるか、もはや抗がん活性を失っている可能性が高いと言えます。

photodegradation products of dacarbazine

(Dacarbazineの光分解によって生成する発痛物質の探索,より引用)

 

遮光の必要性

では医療現場での実践的な話です。どれほどの遮光が必要で、どこまでの光への接触が許容されるのでしょうか?

先に参考にした文献を紹介します。
ダカルバジンの光分解に対する新規遮光カバーの有用性の検討
森尾 佳代子 先生ら 医療薬学 2013, 39, 381-387.

Fig. 1 遮光・測定条件

この文献の実験で使用されているのは下図のような大阪大学病院が作成したカバーです。文献のなかの実験では、これがメーカーから提供されているカバー(おそらく輸液バッグのみの遮光)よりも優位にDiazo-ICの生成を抑制する結果が得られています。

光源:室内光
①遮光なし
②輸液バッグのみ新規遮光カバーで遮光
③輸液バッグとルートの両方を新規遮光カバーで遮光
の3 条件で検討

サンプル採取
輸液バッグ内から直接,またルートを通過後に約1 mL 採取

 

Fig3:ダカルバジンのバッグに遮光をした場合としなかった場合

ダカルバジンのバッグに遮光をした場合としなかった場合

ダカルバジンの輸液バッグに
①遮光を施さなかった場合
②遮光を施した場合
分解生成物(DiazoーIC)の量の違いです。

120分間光にさらすと、輸液バッグ内のDiazo-IC量は、2.4倍の差となります。

 

Fig4:実際に点滴を流した時のデータ

実際に点滴を流した時のデータ

①遮光なし
②輸液バッグのみを遮光
➂輸液バッグとルートを遮光
同じく分解生成物(DiazoーIC)の量を測定した結果です。

120分の累積Diazo-ICの量は①②の結果は同じであり、この結果からルートまで完全に遮光をする必要が考えられます。

 

 

読んでいただきありがとうございました。